AIDBのロゴ入りTシャツを着て話す水谷健さん

【第1章】AI論文を解像度高く発信。AIDBの誕生背景

― Parksの事業概要と、立ち上げた経緯を教えてください。

現在(2025年9月)、株式会社Parksが運営している主な事業は3つあります。中心となるのは、世界中の研究機関や企業が発表するAI関連の論文を日本語で提供する会員制プラットフォーム「AIDB」です。それに加え、AIに特化した人材を企業にスカウト型で紹介する「AIDB HR」や、企業の課題に合わせて先行研究を調査し、解説や実装をお手伝いするコンサルティングサービス「AIDB R&D」も展開しています。

2018年の創業当初、AIの可能性が広く語られる一方で情報の信頼性に課題を感じていました。「信頼できる情報とは何か」「どうすれば正しい情報を得られるか」と考えた時、答えは研究論文にあると気づいたんです。それを確実に届ける日本語のプラットフォームが必要だと確信してAIDB(立ち上げ当初はアイブン)を立ち上げました。私自身にもネット上の不確かな情報に惑わされた経験があるため、AIやテクノロジーの進化が注目される今こそ、正確な情報が求められていると実感しています。

― 主力であるAIDBの概要を教えてください。

AIDBでは、研究者やエンジニア、ビジネスパーソン、学生など、誰もが最新のAI研究に触れられるように日本語で分かりやすく要約・解説した論文コンテンツを提供しています。世界中で毎日100件以上のAI論文が発表される中から、独自の基準で重要性の高いものを厳選し、X(旧Twitter)では月30本、ウェブサイトでは月20本ほど発信しています[1]。

― AIDBの会員にはどのような属性やニーズの方が多いですか。

業界ではITやソフトウェア、職種ではあらゆる業界に所属するエンジニアが中心です。「業務にAIを取り入れるために知見を得たい」「自社のAI活用方法を模索している」というニーズが多いですね。学生からも「AI企業への就職に備えて知識を蓄えたい」といった声も頂いています。

― AIDBの競争優位性は何でしょうか。

2つあります。1つは、2018年から継続して運営している点です。AIブームで突発的に発信し始める人も多い中、継続性を持って発信し続けていることで論文選定の視点や発信の知見が磨かれています。もう1つは、ユーザーとの距離が近い点です。メールでのヒアリングやZoomインタビュー、100人規模のイベント「AIDB Meetup Tokyo」などを通じ、ユーザーと積極的にコミュニケーションを取りながら関係を築いています。

ユーザーからは「昔から見ていた」「ちゃんとしている人が、ちゃんと考えて運営している」とおっしゃっていただいています。Xでも、AI研究に特化したニッチなアカウントにも関わらず、着実にフォロワー数を伸ばしています。

AIDB Meetup Tokyoの会場で交流する参加者たち

― AIDBでは、どのようにAI論文を選定していらっしゃいますか。

アメリカや中国を中心に毎日発表されているAI論文を選定する際、「市場性」や「最新性」「発表機関の信頼性」に加え、「ユーザーの知的好奇心を掻き立てられるか」「実務に活かせるか」という視点も重視しています。さらに、AI・テクノロジーの分野では1〜2ヶ月で情報が陳腐化することや、発表されたばかりのAI論文が2〜3ヶ月前の技術をもとに書かれていることもざらにあるため、最新性にもこだわっています。

― AI論文はどのような機関が発表しているのでしょうか。

近年、大学ではUC BerkeleyやMIT、Stanford、Carnegie Mellon、清華大学など、企業ではGoogle、Meta、OpenAI、Anthropicなどが積極的に論文を発表しており、AIDBでもそれらの情報を多く取り上げています。

【第2章】AIを取り入れたい現場 VS 慎重な経営陣

― AIに対し、各業界にはどのような課題があるとお考えでしょうか。

製造業では、経営判断と現場ニーズの間でズレが生じる傾向があります。経営陣が慎重な姿勢を取る一方、現場の担当者はAIへの関心が高く、積極的に業務に取り入れたい、少しでも触れたいと考えています。実は、IT業界でも業務要件やセキュリティの制約からAI導入に保守的な企業は多く、経営層と現場社員の温度差がボトルネックになるケースが見られます。

業界を問わず、経営陣による意思決定の遅さは事業のスピードを落とすだけでなく、意欲ある人材の離職リスクにも繋がります。AIを活用してクリエイティブなプロジェクトに携わることは、報酬の一つになっているようにも思います。

― 「AIDB HR」を運営する中、AI人材にはどのようなスキルや経験が求められていますか。

そもそもAI人材は世の中に何人いるかが分からないほど貴重な存在ですが、大きく2つのニーズがあります。1つは、AIに詳しく、社内外でその知識を伝えながら力を発揮する人材。もう1つは、社内でAI開発に関わるだけでなく、技術とビジネスの橋渡しもできる人材です。特に大手企業では、コンサルティングスキルとエンジニアリングスキルを兼ね備えた人材へのニーズが顕在化しています。

― AI人材の採用では、どのようなミスマッチや課題がありますか。

一般的に、技術を教えられるスキルや経験を持つ方は50〜60代の熟練したエンジニアが多いですが、実際の現場でAI人材として求められるのは、AI領域に精通してモデル開発を担える、プレイヤーに近いエンジニアです。「人の上に立ってきたベテラン」という点でエントリーすると、企業が欲しがっているペルソナとのミスマッチが起きやすいです。

また、AI人材の需要に供給が追い付いていないことも課題です[2]。その点では、AIDBにはAIに関心を持つ技術者が継続的に登録しているため、企業のニーズに応じたマッチングの基盤が整いつつあります(2025年8月取材時点)。

AI人材スカウト型マッチングサービスAIDB HRのウェブサイト

― 水谷さんの手がける「AIDB R&D」とは、どのようなサービスでしょうか。

先述のとおり、AIDBでは、運営側が選んだ論文を一般の方向けに提供しています。一方、企業からは「自社の課題に合った研究調査をしてほしい」というご要望も多く寄せられるため、法人向けにAI活用の支援を行う「AIDB R&D」を立ち上げました。さまざまな業界の企業に対し、私たちがAI論文の調査で培った知見を活かして開発フェーズも含めた技術支援を提供しています。私が製造業出身ということもあって同業界のお客様が多いため、定期的なコンサルティングや開発支援も行っています。

― AIDB R&Dでは、企業のお客様が課題に合ったAI手法を選べます。皆さんは実際にどのように活用していらっしゃいますか。

例えば、昨今ではチャットベースではない「AIエージェント」への関心が高まっており、現場では技術を実装しながらも最新の研究動向を継続的に把握しなければなりません。AIDBではスペシャリストがエンジニアリングに集中できるよう、調査や情報整理の面でサポートしています。

【第3章】「終日立ちっぱなしでも余裕」の体力づくり

― この章では水谷さんの健康習慣について伺います。普段、どのような運動をしていらっしゃいますか。

健康についてはいつも考えていますね。厚生労働省の資料によると一日8000歩以上が推奨されているので、毎日意識して歩いています[3]。筋トレは約3年間、2日おきにチョコザップで上半身を中心にチェストプレスやラットプルダウン、ショルダープレスなどをしています。

― 積極的に筋トレや運動を始めたきっかけは何でしょうか。

私の名前が「健康」の「健」ということもあり、学生時代から健康であり続けることの重要性を考えてきました。体調を崩すと業務に影響が出るので、日々の健康習慣が不可欠ですよね。10代の頃は部活や体育の授業などで日常的に運動していましたが、社会人になっても体力を落としたくない。定期的に運動することで自分をアップデートしている感覚があるし、若くいたいのかもしれません(笑)。

AIDBのロゴ入りTシャツを着て登壇する水谷健さん

― 運動することで、お仕事にどのような影響がありますか。

デスクワークでこり固まった肩が解消されます。また、先日イベントを開催した時、何時間も登壇したり、ご来場者の皆さんと話し続けたり、準備や片付けをしたりしていましたが、あまり疲れなかったし、体力に余裕を感じました。仕事関係の方々と運動の話題で盛り上がれる点でも、社会的なメリットもありますよね。

― 運動以外でも、健康的に過ごすために心がけていることはありますか。

ラジオ体操を続けています。日本人の平均寿命が長い理由の一つに、もしかしたら全員ラジオ体操ができるからじゃないか、と。次に『LIFESPAN(ライフスパン):老いなき世界』の著者で長寿研究の第一人者であるデイビッド・シンクレア氏が、『レスベラトロール』というポリフェノールの一種を摂っていると公言していたので、私もサプリメントで補っています[4]。さらに、立ちっぱなし、座りっぱなしにならないように昇降デスクを使っています。

激務が続いても「まだいける」という実感は、長期的な事業成長にも欠かせません。フィジカルでもメンタルでも「健康のためにこれを習慣化してきた」という蓄積は自信になります。食事では、炭水化物を摂り過ぎないようにしていますね、そのほうが体調や体型のコンディションがいいから。

【第4章】AIと共生したいならまず、自分と向き合う

― 各々でもAI論文を要約できる今、AIDBの価値はどこにありますか。

何かを調べる時に「選ぶ」という行為が最も難しいのではないでしょうか。AI関連の論文が大量に発表される中「自分は何を読むか」を判断すること自体、至難の業です。情報を処理する側の能力に限界がある中、業界の審美眼を持つAIDBが「選ぶ」を代行することに価値があります。

また、誰かが勧めてくれたものを読むのと、AIが要約したものを読むのとでは、内容の入り方が変わります。もちろん、AIを活用して能動的に学ぶことも大切ですが、目的別にこれらを組み合わせて使うことで理解が深まるはずです。

― 上手くプロンプトを打てず、思いどおりの情報を得られない方が、AIに丸投げするのはリスクにもなり得ますよね。

はい。画像や音声、動画など、AIが扱えるモダリティは広がっています。一方で、現実世界の文脈まで捉え、そこから「人と人を繋ぐ」といった発展的な役割を担うことには、まだ限界があります(2025年8月取材時点)。

「この論文はAさんに向いている」「BさんとCさんが議論すれば化学反応が起きる」といった、人間関係や個々の背景まで踏まえた直感的な結びつきは、現段階のAIが得意とするところではありません。移動したり誰かに会ったり、ネットが繋がらない場所でも活動できたりするのは、人間の体があるからこそ。こうした体を伴ったモダリティは今後、ますます重要になると見ています。

― これからの時代、AIと人の関係はどのように変化していくでしょうか。

すでにAIと人にはさまざまな関係が生まれています。AIをツールとして扱う人、AIと友達になる人、AIを優秀な部下、または頼れる上司として仕事している人などもいらっしゃいます。今後も、こういった多様化が進むでしょう。その前提で、それぞれの向き合い方を尊重することが大切です。AIとフレンドリーに接している人に「AIはツールだよ」と自分の考えを押し付けるのではなく、それぞれの価値観を許容することが共生には欠かせません。

― 水谷さんとAIはどんな関係ですか。私はAIに叱咤激励されながら仕事をしています。

現時点では、便利なツールとして使っています。ただ、あらゆるテック企業がAI搭載のヒューマノイドロボットを販売するようになり、AIが物理的に人間社会に干渉するようになると関係も変わってくるでしょうね。個人的には、ロボットが会社を経営できるようになったら、上司として君臨してくれても構いません。

― Parksの中長期的な戦略をお聞かせください(2025年8月取材時点)。

Parksは、AI領域の情報を集約するハブとして活動してきましたが、今後はツールの開発や実装にも踏み出したいと考えています。例えば、最先端のAIとオートメーションまたはロボティクスを組み合わせ、新しい技術を生み出して事業化していく。つまり、ソフトウェアに「体」を持たせていく構想です。このような動きは私たちだけでなく、モノづくりに関わる方々にとっての大きな転換点になるはずです。

― 最後に、ビジネスパーソンはAIとどのように向き合うといいでしょうか。

それは「人または自分とどう向き合うか」とも重なる気がします。「人は何を求めているか」を突き詰めていくと、確固たる信念やミッションが生まれます。それに対し、AIがどのように貢献できるかに焦点を当てるべきです。それに、AIの進化に振り回され続けるのは、本質的ではありません。自分は何を求め、何を成したいか。その問いに向き合うことが、AIとの適切な距離感にも繋がります。

もしAIに足りない部分があるなら、自分で開発する。あるいは、それを作ろうとするスタートアップを応援する。AIと向き合う前に、自分自身と向き合う。何でもできるようになっていく世の中だからこそ「自分って、何がしたかったか」という軸を持つことが大切ではないでしょうか。

― 水谷さん、お話をお聞かせいただきありがとうございました。

参考資料

  1. The Stanford Institute for Human-Centered AI (HAI) 01 Research and Development
  2. 経済産業省「令和3年度AI⼈材連携による中⼩企業課題解決促進事業(産業界による中学・⾼校等のデジタル関連部活⽀援可能性調査)」
  3. 「厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」推奨シート:成人版」
  4. Huberman Lab「Dr. David Sinclair: The Biology of Slowing & Reversing Aging」
取材対象者
株式会社Parks代表取締役兼CEO 水谷健
取材日
2025年8月2日
初回公開日
2025年9月4日
最終更新日
2026年10月27日
企画・取材・執筆
佐野 桃木
写真提供
Parks
最高顧問
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